歯列矯正にかかる費用は、原則としてすべて自己負担です。しかし、上下の噛み合わせが大きくズレた「顎変形症(がくへんけいしょう)」の矯正治療では、健康保険の適用になる場合があります。
今回は、顎変形症とその治療方法、そして、保険適用で矯正治療するための条件についてご紹介します。
顎変形症になると噛み合わせや顔の形にも大きな影響が
顎変形症とは、上下のあごの骨がずれているために、噛み合わせが悪くなった状態を言います。咀嚼(そしゃく)しにくい、きれいに発音できない、などの機能的な問題に加えて、顔面が左右非対称になるなど、美容面にも影響する場合があります。
前後・上下・左右非対称|顎変形症だと歯並びはどうなる?
上あごと下あごがずれることで、主に以下の症状があらわれ、中にはこれらを合併するケースもあります。
- 骨格が前後にずれて起こる「上顎前突(出っ歯)・下顎前突(受け口)」
- 骨格が上下にずれて起こる「開咬」
- 骨格が左右にずれて起こる「交叉咬合」
関連コラム
出っ歯に開咬…矯正治療をおすすめする悪い歯並び5種類
「見た目」と「歯並び」だけではない!顎変形症で引き起こされる症状
顎変形症では、上下の歯がうまく噛み合わないため、あごの筋肉や関節に余計な負担がかかり、痛みが生じることがあります。また、下あごが小さい場合には、空気の通り道が狭くなるので「睡眠時無呼吸症候群」を発症することもあるのです。
軽度の顎変形症なら矯正のみで治せる?手術をしたくない場合
軽度の顎変形症ならば、矯正治療のみで改善することがあります。
顎のずれを治療する場合、外科手術と歯科矯正の併用で治療していくケースがほとんどです。上あご、下あごの骨に変形がある場合、切離手術で変形を改善する方法が適しているからです。
しかし症状が軽度の場合や、噛み合わせを治したいけれど、顎のずれや非対称は治療しなくもていいと患者さまが判断した場合には、外科手術をせず、矯正治療のみ行うこともあります。
軽度の顎変形症で手術をするかしないかは、患者さまの希望を踏まえて決定します。手術をした場合と、矯正治療のみの場合で結果にどのような違いが出るのか、納得したうえで治療を開始しましょう。
重度の顎変形症は歯列矯正と手術で根本的な治療を
軽度の顎変形症なら、歯列矯正のみでも改善が見込めます。しかし、骨格のずれが重度の場合は、歯科矯正とあわせて、顎の骨に対する手術が必要です。
骨格のずれが再発しないよう、顎の成長が終了する16~18歳以降に治療を受けるのが一般的です。
歯列矯正と外科手術の両方を行う場合の一般的な流れ
<手術前の歯科矯正>
手術後に歯が正常な位置で噛み合うよう、あらかじめ矯正を行って整えます。患者さまの希望や症状によっては、手術から始めるケースもあります。
<手術>
形成外科・口腔外科で行います。手術は全身麻酔下で行われ、入院期間は10日前後を見込んでおきましょう。
<手術後の歯科矯正>
術後、顎が安定するのを待ちながら、歯並びや噛み合わせの微調整を行います。
上記の治療にかかる期間はトータルで3〜4年程度と長期にわたりますが、骨格のずれを根本から改善できます。その結果、噛み合わせの異常はもちろん、これまでにご説明したさまざまな症状が改善され、口もとの印象も大きく変わるのです。
顎変形症を保険適用で治療するには?
以下の条件を満たす重度の顎変形症の歯列矯正と手術には、健康保険が適用できます。
- 「あごの骨に対する手術が必要な顎変形症である」と診断を受ける
- 「顎口腔機能(がくこうくうきのう)診断施設」の認定を受けている医療機関で治療を受ける
「顎口腔機能診断施設」の認定は、年度により変更される場合があるので、受診の際は必ず医療機関に確認しましょう。
軽度の顎変形症は保険適用できる?
顎変形症と診断されても、外科手術をしないで矯正治療だけ行う場合は、保険が適用されません。
健康保険の適用になるのは、保険顎口腔機能診断施設に指定されている医療機関で「顎変形症」の診断が出て、外科手術を伴う矯正治療をした場合です。
しかし自分では軽度だと判断していても、検査を受けたら手術が必要だと診断される可能性もあります。まずは信頼のおける矯正歯科に相談してみましょう。