子どもの過蓋咬合(かがいこうごう)は、噛み合わせの問題や顎関節への負荷など、お子様の成長に悪影響を与える可能性がありますので、早期治療が望ましいとされています。
しかしながら、過蓋咬合はパッと見た時の歯並びに問題がないように見えるため、お子様自身や親御様も気が付きにくく、放置されるケースは少なくありません。
このコラムでは、子どもの過蓋咬合の原因や症状、治療法、予防法などについて説明します。
子どもの過蓋咬合で見られる症状
過蓋咬合は奥歯を噛み合わせた時、上の前歯が下の前歯を覆い、下の前歯がほとんど見えない状態を指します。別名「ディープバイト」と呼ばれ、歯の噛み合わせが深い状態である不正咬合の一つです。
覆い被さることで歯茎が圧迫され、歯茎が赤く腫れたり痛みを伴ったりする場合も。また噛み合わせが深いと下顎の動きが制限され、口を開閉しにくくなるほか、顎関節に負担がかかり痛みを感じることもあります。
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子どもが過蓋咬合になる原因
子どもが過蓋咬合になる原因は、主に2パターンあります。
遺伝的要因
歯並びや噛み合わせは遺伝的に受け継がれることが多く、両親や祖父母に過蓋咬合がある場合、お子様もその傾向を持ちやすい。
・上顎の過剰な成長や下顎が十分に発達しないなど、上下の顎のアンバランス
・歯が本来の位置からずれて生える場合や歯が斜めに生える、傾いて生えるなどの歯の生える位置
・前歯が長く生える、歯の数が多いなどの歯の生え方
遺伝的要因に加え、後天的要因が重なり合うことで、過蓋咬合の症状がより悪化する場合があります。
後天的要因
生活習慣や環境などの影響によっても、過蓋咬合が引き起こされる。
・舌をいつも出している、舌を歯に押し当てるなど、舌の悪癖
・習慣的に口呼吸をしている
・よく歯ぎしりや頬杖などをしている
何気ないお子様の動作や癖により、過蓋咬合を発症する場合があります。後天的要因については、生活習慣を変えることで改善できる可能性もあるため、日頃からお子様の行動などを注意深く見守りましょう。
子どもの過蓋咬合の治療は早く治療した方がいい?いつから始める?
子どもの過蓋咬合の治療開始時期は、お子様の前歯が4本揃う6歳前後に始めるケースが一般的ですが、必ずしもこの年齢から始める必要はありません。過蓋咬合の原因や状態などによっては、早期治療が望ましい場合もあります。
顎の成長に悪影響を及ぼす可能性があるため、お子様の歯並びで気になることがありましたら、早めに矯正歯科医院へご相談されることをおすすめします。
過蓋咬合の治療法
顎のアンバランスや歯の生え方などに原因がある場合、矯正治療を用いて過蓋咬合の症状を改善します。
骨格のバランスを整える「マウスピース型の装置」
過蓋咬合は顎のアンバランスや口周りの筋肉が弱いことも原因になります。取り外し可能なマウスピース型装置をお子様が自宅にいる際に装着していただくことで、口周りの筋肉を強くして、顎骨のバランスを整え骨格のバランスを整えます。
また、口呼吸から鼻呼吸へ改善したり舌の位置を正しく導いたりするなどの効果も期待できるでしょう。
顎の骨を拡大する「拡大床」
拡大床は、成長期の子どもの顎骨を広げる時に使用する取り外し可能な装置です。顎の幅を広げることで歯並びの改善、噛み合わせを整える効果があります。
お子様の成長に合わせて無理なく広げていきますので、痛みが少ないことが特徴です。また、歯を抜かずに治療を進めるため、お子様への負担もほとんどありません。
子どもの過蓋咬合を防ぐ生活習慣
子どもの過蓋咬合は、生活習慣を見直すことで予防できる場合があります。
正しい姿勢
ストレートネックや猫背などの首が前に出ている姿勢は、上顎の過剰な発達・下顎が緊張するなど、顎骨への発育に影響を与えます。また、舌が正しい位置に収まりにくくなり、歯並びを支える働きが低下する可能性もあるため、過蓋咬合のリスクは高まるのです。
正しい姿勢は、頭や首の筋肉のバランスをよくし、顎骨が均一に成長するよう促します。とくに頭を正しく支えると、顎の位置が自然に整い、過蓋咬合を予防できます。
また食事中の姿勢も大切です。顎や歯の発育も影響を与えますので、背筋を伸ばしてよく噛んで食べる習慣を身につけましょう。
下あごを動かして筋肉のバランスを整える
下顎を動かすことで筋肉が鍛えられます。顎関節に刺激を与えられ関節の動きがスムーズになりますので、顎の骨の成長に良い影響を与え、予防効果が期待できます。
トレーニング方法は、歌を歌ったり舌をぐるぐる回す運動、頬を膨らませたり凹ませたりするなど。ご自宅で気軽に、ご家族で一緒に楽しみながらできます。
過蓋咬合を放っておくとどうなる?
過蓋咬合の見た目は問題ないように感じるため、治療の必要性を感じず、そのまま過ごされる方もおられます。しかし、矯正治療を放っておくと次のような問題が生じる可能性があるため、注意が必要です。
歯茎が腫れる
下の前歯が上の前歯の裏側の歯茎に当たることが多く、これにより歯茎が傷つき、炎症を起こしやすくなります。
また、奥歯がすり減るにつれて前歯の噛み込みが深くなり、歯茎への圧力が増加し、歯茎が腫れることもあります。
虫歯や歯周病を起こしやすくなる
上の前歯が下の前歯を深く覆うため、歯の表面が完全に乾きにくく、唾液や食物が残りやすくなります。そのため歯の表面にプラークが溜まりやすくなり、虫歯のリスクが高まるのです。
歯間ブラシやデンタルフロスの使用が難しくなるのも原因の一つです。プラーク(歯垢)が歯の間に溜まりやすくなり、虫歯や歯周病を引き起こしやすくなります。
奥歯がすり減る
歯と歯が強くぶつかり合うことで、奥歯の表面が削れやすくなります。歯の神経に近い部分が露出するため、虫歯の発症リスクも高まります。
顎関節症の発症リスクが高まる
上顎の前歯が下顎の前歯を深く覆うため、下顎の動きが制限されます。顎骨や顎関節に大きな負担がかかり、顎関節症を引き起こしやすくなるのです。
出っ歯になりやすい
上の前歯が下の前歯に強く押し付けられています。この状態が長く続くと、上の前歯は後ろから押される力を受け続けるため、次第に前に出てきてしまいます。
そのほか、上の顎が過度に成長することも原因です。上の歯が下の歯に強く当たっている状態が、骨の成長を刺激するため、上の前歯がさらに前に突き出る形になります。
詰め物や被せ物が外れやすい
上下の歯が強く噛み合わさるため、詰め物や被せ物にかかる力が通常の噛み合わせよりも大きくなります。そのため、詰め物や被せ物が外れやすくなります。
ガミースマイルになる可能性も
上の歯が下の歯に強く当たっている状態は骨の成長を刺激するため、上顎が過度に成長する場合があります。それにより、歯茎がより多く露出するようになるのです。
過蓋咬合の状態が長く続くと、唇の筋肉のバランスが変化し、上唇が上がりやすくなることがあります。歯茎がより多く露出してしまい、ガミースマイルを悪化させる可能性があります。
お子様の過蓋咬合の治療は矯正歯科にご相談を
過蓋咬合を放置すると、歯並びの問題や顎の発達、噛み合わせの悪化を引き起こす可能性があります。虫歯や歯周病のリスクが高まるほか、歯の摩耗や顎関節の問題も懸念されるため、早期の対応が大切です。
矯正治療ではお子様の成長段階に合わせた治療を進め、歯並びを改善します。お子様の歯並びが気になったタイミングで、矯正歯科医院に相談してみましょう。